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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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マウスピース型矯正装置に否定的な先生がいるのはなぜ?

抜歯ケース(インビザライン) 抜歯ケース(ワイヤー矯正装置)

早いもので2026年も1月が終わり2月となりました。現在矯正治療でメインの治療法の一つになりつつあるマウスピース型矯正装置(インビザライン)ですが、実は否定的な先生も結構おられます。矯正歯科の中にはマウスピース型矯正装置(インビザライン)は取り扱っていませんという先生も少なからず存在します。当院ではマウスピース型矯正装置(インビザライン)を取り扱っておりますが、全ての方にお勧めしているわけではありません。ネット上には、マウスピース型矯正装置は「取り外し可能」「歯磨きが楽」「歯を抜かずに治療可能」「痛み、違和感が少ない」「ほとんど目立たない」等々良いことばかりの夢の装置のような文言が並んでいますが、欠点も当然存在します。今回はあまり語られることの無いマウスピース型矯正装置に否定的な先生がおられる理由とマウスピース型矯正装置の欠点についてお話したいと思います。

マウスピース型矯正装置(インビザライン)とワイヤーのブラケット矯正装置を比較した時に、一番の問題は、逆説的ですが「取り外しが可能」ということです。「取り外し可能」というのは、マウスピース型矯正装置の大きなメリットの一つですが、皮肉なことにそれが最大の欠点でもあります。歯は歯冠と呼ばれる口の中に見えている頭の部分と歯根と呼ばれる歯茎(歯槽骨)の中の通常見ることができない根の部分から成り立っています。歯根は骨の中に存在するため、装置を着けることができません。そのため矯正治療で歯に力を加えられる部分は歯冠の部分になります。これはワイヤー矯正装置でもマウスピース型矯正装置でも同じです。

ここで問題になるのが、歯冠の部分だけにそのまま力を加えると、歯根は骨の中にあるため移動せず、歯根を中心に歯が傾いてしまいます。歯が傾いてしまうと当然斜めになってしまいますので、歯並びは綺麗に整いませんし咬み合わせもうまく合いません。そうならないようにワイヤー矯正ではブラケット装置を通じて歯根も歯冠に合わせて動くように調整し(歯体移動と言います)、歯が斜めにならないようにしています。しかしこの歯根を動かす力(トルクと言います)はとても大きな力が必要になります。ワイヤー矯正では、ブラケット装置をしっかりと歯に接着して大きな力がかけられるようにしています。

ところが、マウスピース型矯正装置(インビザライン)では取り外しできることが前提なため、歯根を動かすような大きな力(トルク)がかかると、マウスピース(アライナー)が歯から外れて浮き上がってしまい、力がうまく歯にかからなくなってしまうという現象が起こります。結果としてマウスピース型矯正装置では、歯根を大きく動かすことが困難で、主として歯冠部分だけが動く傾斜移動になりがちです。

そうするとどういうことが起こるかというと、一見歯の歯冠部分だけを見ると綺麗に並んで、歯並びがとても良くなったように見えても、実は歯根の位置は治療前と大きく変わっていないということが起こりえます。一見綺麗に治っているように見えても歯根の位置は変わっていないため、治療後に元の歯並びの状態に戻りやすいという問題が起こってしまいます。これは言っていいことなのかわかりませんが、インビザラインを製造しているアライン社の方が後戻りしやすいことを認めておられました。これが当院でどんな方にもマウスピース型矯正装置(インビザライン)をお勧めしているというわけではない最大の理由です。

いわゆる「抜歯矯正」では、歯冠だけではなく歯根も同時に動かして抜歯スペースを閉鎖する必要があります。マウスピース型矯正装置では歯冠だけの傾斜移動でスペースが閉鎖してしまうリスクがあり、うまく治療できないケースが多々あります。特に歯冠の部分の長さが短い方はそうなりやすいです。そのためマウスピース型矯正装置では抜歯治療があまり得意ではなく、どうしても非抜歯治療がメインになってしまいます。マウスピース型矯正装置(インビザライン)で「歯を抜かずに治療可能」等との宣伝文句をよく見かけますが、「歯を抜かずに治療可能」というより「歯を抜く治療ができないことが多い」ということであり、本来歯を抜いて治療すべき、した方が良いという症例も沢山存在します。本来抜歯すべき症例を非抜歯で治療して、一見歯並びが綺麗に並んでいても、先生によっては「ただ歯が並んだというだけで、矯正の治療として治ったとは言わない」という判断になってしまいます。「歯が並ぶ」=「矯正治療のゴール」ではないということです。私も同感ですし、そうだと思っています。

当院ではマウスピース型矯正装置(インビザライン)は、症例を選んでお勧めしています。当院ではワイヤー矯正装置と同等かそれ以上の治療効果が期待できる場合にしか、マウスピース型矯正装置はお勧めしていません。ワイヤー矯正装置でないとうまく治せない症例があることも事実です。すべての患者さんをマウスピース型矯正装置(インビザライン)でワイヤー矯正装置と同等に治療できるわけではありません。いささか時代の流れには逆行しているかもしれませんが、ワイヤー矯正装置でしか治せない症例はワイヤー矯正装置で治療する、その見極め、選択がとても大切なことだと思っています。

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2026月02月08日

院長 大西 秀威