前回のコラムで小さい頃によく咬んだからといって、顎の大きさが大きくなることは考えにくいことをお話しました。では、よく咬むことに意味はないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
ものをよく咬むことによって、起こる可能性のある現象として
1. 歯並びが大きく、広くなる
2. 咬む筋肉(咀嚼筋)が鍛えられ、咬む力が強くなる
3. 骨の密度が高くなり、丈夫になる
4. 脳への刺激となり、脳の活性化が起こる
などが挙げられます。
最近の研究によって、ものを咬むことによって顎の大きさは変化しないが、歯並び自体は大きくなる可能性があることが示されました。
歯は骨から萌出する際、斜めに萌えてきます。最初は斜めなのですが、ものを咬むときの力や舌の力により、歯は徐々に起き上がってきます。よく咬む人ほど、歯がより真っ直ぐに起き上がってくることがわかってきました。最初は内側に斜めに萌えてきた歯が、よく咬む人ほどより直立した状態となり、結果として歯並びが広がり、大きくなるのです。
詳しい機序は不明ですが、現代人よりも硬いものを咬んでいた縄文人の歯は、現代人より直立していたことを考えると、硬いものをよく咬むことにより歯に起き上がる力が作用する可能性が考えられます。
また、硬いものを咬んだり、ものを咬む回数が増えると、それだけ咬むための筋肉(咀嚼筋)をよく使いますので、咀嚼筋が発達します。咀嚼筋が発達すれば、咬む力(咬合力)は強くなり、食物の咀嚼能力や消化能力が高くなります。
よく咬むことによって骨の大きさは変化しませんが、骨が硬くなるすなわち骨密度が高くなる可能性はあります。骨の主成分はリン酸カルシウムという物質ですが、リン酸カルシウムが骨の中にぎっちり詰まっているわけではありません。骨の中には細い骨梁(骨小柱)というものがたくさん走っており、この骨梁にリン酸カルシウムは蓄えられています。骨梁は文字通り屋根の梁のように、骨を支える小さな柱のようなものですが、骨梁の走行や密度は骨にかかる力の方向や大きさ、強さによって変化します。これは大人の方でも起こる変化です。
咬む回数が増えたり、咬む力が強くなれば、その力に耐えられるように顎の骨の骨梁の走行や密度が変化し、結果として骨量が増加し、骨密度が高くなります。
ものを咬んだときの咬んだ刺激というのは、歯の周りの歯根膜という組織で検知し、骨の中の三叉神経という神経を通って脳に伝わり、咬んだ感覚を感じます。咬んだ力は常に脳への刺激となるため、脳が活性化します。歯が完全になくなって寝たきりになってしまったご老人の方が、しっかり咬める入れ歯を作ると、歩けるようになったなどいう話もあります。また、しっかり咬むことで記憶力が活性化し、ボケ防止になるといわれています。
このようによく咬んだり、硬いものを咬むことにより、様々なよい変化が起こる可能性があります。もちろんむやみに強い力で咬み続けると、歯や歯ぐき、顎の関節に問題が起こることもありますが、食事の際によく咬むことによって、現代人にとって不利益になるようなことは基本的にありません。
小さなお子様をお持ちの親御さんは、やはり子供さんによく咬んでご飯を食べるように勧めていただきたいです。
2012月11月01日
院長 大西 秀威