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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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下顎のオートローテーションとは?

大変久しぶりの更新となってしまいました。このコラムは更新停止と思われている方もおられたかもしれませんが、細々と更新は続けていこうと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。今回は、最近お問い合わせをいただくことが多い「オートローテーション」についてお話しさせていただきたいと思います。

「オートローテーションの治療をやっていますか?」とか「オートローテーションすれば、外科矯正は避けられますか?」などのお問い合わせをいただくことがあります。「歯並び、咬み合わせ」と「オートローテーション」は密接に関連しあっているため、「オートローテーション」のことを全く考えずに治療を行っている矯正専門医はおそらく一人もいないのではないかと思います。何か誤解があるのかなと思うのですが、「オートローテーション」というのは、実は矯正医にとってはごく一般的な技術、知識であり、特段特殊な治療法でもありません。

「オートローテーション(autorotation)」とはどう意味かというと、直訳すると「自動回転、自転」となります。では何が自動回転するかというと、下顎の骨(下顎骨、かがくこつ)です。下顎骨は、頭の骨(頭蓋骨、とうがいこつ)の関節窩(かんせつか)に嵌り込んで、顎の関節(顎関節、がくかんせつ」を形成しています。関節窩の中で下顎骨が回転運動することによって、口を開けたり閉じたりをしています。

口を開けた状態から閉じていくと、歯がどこかで当たって、それ以上口を閉じることができなくなります。どこまで口を閉じることができるかは、歯あるいは咬み合わせの高さで決まっています。これを咬合高径(こうごうこうけい)と言います。一般的に咬合高径が高いと、口を深くまで閉じることができず、奥歯を咬んでも上下の前歯が開いてしまう状態、開咬(かいこう)になりやすくなります。逆に咬合高径が低い方は、口が多く閉じることになり、前歯の咬み合わせが深い状態、過蓋咬合(かがいこうごう)になりやすくなります。若い世代の方はご存じないかもしれませんが、私が幼少期の頃は、「くしゃおじさん」という方がよくテレビに出ておられました。私も小さかったので、その時は面白がって笑っていただけでしたが、矯正医になった現時点で考えると、「くしゃおじさん」は、おそらく上下の歯が一本もない無歯顎(むしがく)の方で、歯がないので口を閉じても上下の歯が当たることがなく、下顎が必要以上に回転して、口が閉じすぎの状態になっていたのではないかと思います。これを下顎のオーバークロージャーと言いますが、おそらく超オーバークロージャーの状態になって、顔が「くしゃっ」とした状態になっていたのではないかと考えられます。

一般的に開咬の治療では、口をあまり閉じられない=下顎が深い位置まで回転できない状態になっていることが多いため、咬合高径を低くしていきます。そうすると、下顎が自然に「自動的に回転」して、より深い位置まで咬めるようになり、前歯が閉じてくるという仕組みになります。逆に過蓋咬合の治療では、咬合高径を高くして、下顎が「自動的に回転」して、前歯が開いた位置になるようにして、前歯の咬み合わせを浅くしていくということになります。

このように「オートローテーション」というのは、咬合高径を変えて、下顎骨の回転を促す治療ですので、骨の長さや前後的な位置関係を直接変える治療ではありません。厳密にいうと、下顎が回転すると、歯並びの位置と回転の中心になっている顎関節の位置関係から、咬み合わせも前後的に少しは変化します。ですが、その変化量は1~2mm程度で、外科矯正より少なくなります。そのため、「オートローテーション」をしたからと言って顔立ちが大きく変わるということはなく、当然のことながら外科矯正と同じ治療結果が得られるわけでもありません。顔立ちのバランスを根本的に変化させるには、骨格を直接変化させるより他に方法はなく、やはり外科矯正が必要になります。「オートローテーション」は、あくまで開咬や過蓋咬合等の治療方法の一手段でしかなく、それをすれば外科矯正しなくても同じ結果が得られるというものではないということをご理解いただきたいと思います。

2022月09月19日

院長 大西 秀威