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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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マウスピース型矯正装置(インビザライン)はどんな症例でも治療可能なの?

インビザラインの適応症例皆様、お久しぶりです。約1年振りの更新になってしまいました。緊急事態宣言に則り医院を閉院したり、矯正の学会や大会が延期あるいはオンラインに変更になったり、オリンピックも延期になったりと、この1年の間に様々なことがありました。現状ではコロナの終息はまだまだ見通しが立たない状態です。明日からは首都圏の緊急事態宣言も解除されるということで、今後事態が収束していくことを願いつつ、久しぶりにコラムを書いてみたいと思います。

今回のお題はマウスピース型矯正装置(インビザライン)でどんな症例も治療可能なのかという話題です。ネットで検索すると、インビザラインに関して百家争鳴、談論風発で色々な意見が出てきます。インビザラインでどんな治療でも対応可能とポジティブに書いているものもあれば、インビザラインでの治療は止めた方がいいとネガティブに書いているものまで、調べれば調べるほど色んな意見が出てきます。個人的にはどの意見も間違っていないし、どれが絶対正しいということもないと思います。それはインビザラインでの治療経験や知識、治療のゴールの設定、何をもって治ったと考えるかなどの基準が先生によって異なっているため、様々な意見が出てくるのだと思います。インビザラインは今までのワイヤー矯正とは異なる新しい治療フォーマットで、まだまだ発展途上の治療技術であるため、とある先生にとっては治ったと考える症例でも、別の先生の見方からすると治ったとは言えないという判断になることが往々にしてあります。そのため私の意見がすべて正しいということではありませんが、現時点で私が考えるインビザラインの治療の適応について述べていきたいと思います。

理論上で言えばですが、インビザラインで全ての症例を治療することは可能です。患者さんがアライナー(インビザラインのマウスピース装置)や上下の歯の間にかけるゴム(顎間ゴム)を時間を守って正しく装着していただければ、理論上は原則として全ての治療に対応可能です。しかし、当然のことながら理論と実際は異なります。現実的には治療が非常に困難になったり、適さない症例が多々あります。

インビザラインでの治療が困難になりやすい症例

  1. 外科矯正
  2. 前歯の咬み合わせが深い(過蓋咬合)抜歯症例
  3. 前歯が内側に倒れている(舌側傾斜)抜歯症例
  4. 過大な出っ歯(上顎前突)あるいは受け口(下顎前突)の小児の矯正
  5. 顎の左右方向のズレがある小児の矯正

まず外科矯正ですが、通常のワイヤー矯正では治療費に健康保険が適応されます。インビザラインでも理論上は治療可能なのですが、制度上健康保険が適応されなくなります。そのため治療費が非常に高額になってしまい、トータルで新車の高級車が買えるぐらいの費用がかかってしまいます。また、手術の際には歯に顎間ゴムを掛ける固定式の装置をつける必要があります。そのため外科矯正をインビザラインのみで治療を終えることは事実上不可能です。治療費の面でも技術的な面でも難しいのです。

インビザラインでの治療の適応範囲は、以前に比べてどんどん拡大していますが、治療が難しいのが抜歯ケースです。インビザラインは取り外し可能な装置という特性上、歯と装置の間にどうしても遊びがあります。そのため、抜歯ケースのような歯の大きな移動を伴うような症例では、治療を進めるうちに歯と装置の間のずれが大きくなってしまい、治療が上手く進まないということが起こりやすくなります。インビザラインは、前歯の咬み合わせを浅くするより深くする方が得意という装置としての特徴があります。そのため、元々咬み合わせが深い抜歯症例や前歯が内側に倒れている症例では、抜歯して前歯を後退させることにより、咬み合わせがより深くなってしまったり、過度に前歯が内側に倒れてしまって抜歯したスペースを閉じきれなくなったり、咬み合わがずれてしまって、治療が上手く進まず治療期間が延々と長くなってしまうということが起こる可能性があります。このような症例の場合、治療後の安定性も悪くなりがちで、後戻りを起こしやすくなりますので、インビザラインでの治療は不可能とは言いませんが、お勧めしていません。

近年、インビザラインは小児矯正にも適応できるようになってきています。歯並びを拡大し、歯を並べるというのは、インビザラインの得意分野であるため、奥歯の咬み合わせに問題なく、前歯のガタガタを並べるというような場合は問題ないのですが、奥歯の咬み合わせに大きなずれがある場合(過度な上顎前突あるいは下顎前突)、奥歯や顎の左右方向のずれがある場合には、インビザラインで治療するのは困難です。お子さんの治療の場合、歯並びや顎の成長は途中段階にありますので、成長が終了する前に永久歯が並ぶスペースを確保し、左右の奥歯の咬み合わせを合わせたり、上下の顎のバランスを整えておくことが大切になります。インビザラインは当然のことながら歯につける装置ですので、基本的に動かせるのは歯のみです。上下の顎の前後的、あるいは左右方向の大きなずれがある場合には、歯をいくら動かしても顎の成長が変化するわけではありませんので、根本的な解決はできません。こういった症例の場合、従来の治療法でも治療は難しいのですが、多少なりとも顎の成長をコントロールしてくことは可能です。小児矯正にもインビザラインは適応可能になってきていますが、できることはまだまだ限られているかなというのが僕の感想です。

インビラインはまだまだ過渡期の治療法ですので、現実的にはすべての患者さんを治療可能とは言えないかなというのが正直なところです。しかし、開咬の治療のように、従来のワイヤー矯正よりもむしろインビザラインの方が得意という症例もあります。ワイヤー矯正にしろインビザラインにしろどんな装置でもやはり利点欠点があります。完全無欠な装置は存在しません。メリットデメリットをよくご理解いただいた上で装置を選択していただければと思います。

※マウスピース型矯正装置(インビザライン)は完成物薬機法対象外の矯正歯科装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。

2021月03月21日

院長 大西 秀威