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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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なぜ口呼吸はいけないの?

口呼吸の弊害

前回のコラムで、人間を含む哺乳類は、鼻で呼吸するのが本来の呼吸方であるということをお話いたしました。哺乳類では、鼻は呼吸する器官で、口は食物を食べる器官と役割が異なっているのですが、唯一人間だけが複雑な言語をしゃべる代償として、口でも呼吸ができるような喉の構造に変化しました。口呼吸をすることに伴い、人間では体に様々な不調や問題が引き起こされる可能性があります。今回は口呼吸によって起こる様々な弊害についてお話したいと思います。

口呼吸によって起こる様々な問題として、

  • 歯並びが悪くなる
  • 虫歯や歯周病が起こりやすくなる
  • 消火器系の病気にかかりやすくなる
  • 風邪やインフルエンザにかかりやすくなる
  • 全身の免疫力の低下や免疫系の異常(アレルギー)を引き起こす

などが挙げられます。

上下の唇は口を閉じることにより、前歯が前に出ていかないように前歯を後ろに押す役割があり、舌は前歯が前に広がるように前歯を押す役割があります。唇と舌の筋肉のバランスで歯は位置を保っているのですが、口呼吸していると、必ず上下の唇が離れて、舌が下の歯の裏側か上下前歯の間についている状態になります。そうすると、上下の唇には血がらが入らず、緩んだ状態になりますので、前歯を後ろに押す力がかからなくなります。結果として、前歯が前に出やすくなり、出っ歯(上顎前突)になりやすくなります。また舌の先が下の歯の裏側か前歯の間につくことにより、前歯が押されて前に傾斜したり、開咬になりやすくなります。

また、口呼吸していると、口の中が乾燥しやすくなります。乾燥すると、唾液が口の中を循環しないため、唾液の再石灰化作用や殺菌、洗浄、消毒作用が発揮されなくなり、虫歯や歯周病になりやすくなります。唾液量の低下により、唾液の消化、分解酵素の作用も発揮されなくなるため、胃や腸に過度な負担がかかり、胃炎や便秘、下痢などの消化器系の病気になりやすくなります。

唾液の分泌は自律神経(交感神経と副交感神経)によって支配されています。口の中が乾燥すると、唾液を多量に分泌する必要があるため、活動時に活発になる交感神経が優位な状態が続き、自立神経のバランスが崩れてしまいます。自律神経のバランスが乱れると、免疫系にも異常が起こるため、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎などを引き起こします。

口で呼吸していると、細菌やウィルス、異物を含んだ空気が、鼻毛や線毛、粘液などの鼻の異物排除機構や喉の奥の扁桃リンパ組織を通らず、直接体内に取り込まれることになるため、免疫力の低下とも相まって、風邪やインフルエンザにかかりやすくなります。その他、口呼吸はドライマウスや口臭、着色、睡眠時無呼吸症候群の原因にもなります。

日本語の発音には、欧米の言語のような唇歯音([f]、[v]の発音)がないため、普段から唇を使うことが少なく、日本人は口輪筋が発達しにくいという特徴があります。そのため、日本人は唇を閉じる力が弱く、口呼吸している人が多いと言われています。今井先生は、日本人の実に9割が口呼吸とおっしゃっておられました。口呼吸していると、歯並びだけではなく、体全体に様々な不調が起こる可能性があります。当院のMFTでは、舌の位置のトレーニングだけではなく、口を閉じて鼻で無理なく呼吸できるように練習していただいています。矯正治療は歯並びを良くするだけではなく、自然な鼻呼吸を獲得する治療でもあるのです。

2016月04月14日

院長 大西 秀威