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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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外科矯正は顎のゆがみだけを治すものではありません

顎偏位(治療前顔面) 顎偏位(治療後顔面)

顎偏位(治療前口腔内)顎偏位(治療後口腔内)

以前のコラムで外科矯正と美容整形の違いをお話しました。
外科矯正はあくまで歯科矯正の範疇に入るもので、治療の第一義は歯並びや咬み合わせを良くすることにあり、それに付随して顎のゆがみや見た目も改善していくというものです。一方、美容整形(美容外科)は美容と名がついているように、あくまで見た目を美しくするのが一番の目的で、咬み合わせのことはあまり考慮されていません。外科矯正と美容整形はそれぞれの治療目的が異なり、似て非なるものなのです。

当院には「顎のゆがみを治したい」と来院される患者さんが多くいらっしゃいます。しかし、中には「顎のゆがみは気になるけど、歯並びは気にならない」と言われる患者さんがおられます。当院は歯科矯正(歯並び矯正)専門の医院ですので、「歯並びは気にならない」と言われてしまうと「う~ん、困ったな」と内心思ってしまいます。

つい最近当院に来院された患者さんで「2、3ヶ月前に美容整形外科で上下前歯10本を削ってセラミックの被せ物に変えたので、今は歯並びは気にならないけど、顎の歪みが気になる」と言われる患者さんがおられました。私は「あ~もったいないなあ」と思ったのですが、最初から外科矯正をしておけば、治療期間はかかりますが、歯並びは綺麗になって、顎のゆがみも治って、尚且つ保険適応のため治療費も安くすみ、健康な歯を削らに済んだところです。

外科矯正の治療の流れを見ていただくとわかっていただけると思うのですが、外科矯正をする場合、手術前に術前矯正と言って歯並びを治療する期間が必ずあります。顎がゆがんでいるということは、まず間違いなく咬み合わせもずれてしまっているので、そのまま手術で顎のゆがみを治しても上下の歯は咬み合いません。手術後にしっかりと咬めるように、あらかじめ上下の歯並びを綺麗に整えていく治療を行います。手術後には、動かした骨の位置で最終的な緊密な咬み合わせを作っていく術後矯正の段階を経て保定観察に移行し、矯正治療は終了となります。そのため、外科矯正をすると幸か不幸か必ず歯並び・咬み合わせが良くなります。それが治療の目的ですので当たり前と言えば当たり前なのですが、歯並びや咬み合わせを変えないで外科矯正することは原理上不可能なのです。

上記の患者さんの場合、顎のゆがみは確かにあったのですが、それほど大きくずれているというほどでもなかったことと、前歯のセラミックの被せ物は矯正用のブラケットが接着しにくく外れてしまうことがよくあり、治療に支障をきたす可能性があること、そして何よりもう歯並びは気にならないとのことでしたので、どうしても顎のゆがみが気になるようでしたら美容外科で相談されることをお勧めいたしました。この患者さんが前歯の被せ物を入れられる前に相談に来ていただいていればと思いましたが、やむを得ません。

このように治療の目的や治療の順序によって、外科矯正をお勧めできないこともあります。もし顎のゆがみや見た目が気になる方は、美容外科に行かれる前に一度矯正歯科で相談していただけたらと思います。外科矯正してもまだ顎のゆがみや形が気になるということでしたら、それから美容外科に行かれても全然遅くはないと思います。治療のことで後悔することがないように、アドバイスさせていただきます。

2013月10月26日

院長 大西 秀威