Column

院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

Archive List

セルフライゲーションブラケットとは?

当院では唇側装置・舌側装置ともにできる限りセルフライゲーションブラケットを使用するようにしています。
現在、唇側装置としては主にセルフライゲーションブラケット装置(クリッピーC)、舌側装置としてリンガルブラケット矯正装置(クリッピーL)を使用しています。クリッピーブラケットはセルフライゲーションブラケットと呼ばれる新しい世代の装置です。それに対して従来からのセラミック製のマルチブラケット装置はだんだん使用する機会が減ってきています。セルフライゲーションブラケット装置には従来のマルチブラケット装置にない様々な利点があるからです。
では、従来型マルチブラケット装置とセルフライゲーションブラケット装置はどう違うのでしょうか?

矯正装置で歯をどのようにして動かしているかというと、歯に矯正用ブラケットを専用の接着剤で貼り付けて、ブラケットに矯正用ワイヤーを装着し、ワイヤーの力を利用して歯を動かしています。
矯正用ブラケットの断面を見てみると、「コ」の字型のスロットという部分があり、ここにワイヤーを挿入し、ゴムや細い針金でブラケットとワイヤーをくくること(結紮といいます)により、ワイヤーの力がブラケットを通じて歯に伝わります。
従来のブラケットでは、結紮した際にワイヤーがスロットの底の部分(ベースといいます)に強く押し付けられてしまうため、ワイヤーとスロットの部分で大きな摩擦が生じてしまいます。この摩擦力が歯の移動には大きな障害になってしまいます。歯を動かすにはこの摩擦力に勝る強い力が必要になるため、痛みが出やすく、歯が動きにくい傾向があります。

一方、セルフライゲーションブラケットでは、ブラケット本体に結紮用のシャッターやクリップがついており、ゴムや針金での結紮が必要なくなっています。セルフ(=自分自身)ライゲーション(=結紮)というわけです。
セルフライゲーションブラケットではゴムや針金で結紮しないため、ブラケットとワイヤー間に大きな摩擦力が生じません。そのため、弱い力で歯を動かすことができ、痛みも少なくなるというわけです。

セルフライゲーションブラケット装置のもう一つの利点として、1回の診療時間(チェアタイム)を短縮できるということが挙げられます。従来のマルチブラケット装置では来院ごとにゴムやワイヤーをつける・はずすという作業が必要でしたが、セルフライゲーションブラケット装置ではその必要はありません。1回のチェアタイムは従来のマルチブラケット装置に比べ、1/2~2/3ぐらいになります。

ただ、セルフライゲーションブラケット装置にも欠点があります。装置が従来のセラミック製のマルチブラケット装置より若干目立ちやすいことです。
特に以前よく当院で使用していたセルフライゲーションブラケット装置(デーモン3)は、装置の半分が金属でできていため、審美的にはいいとはいえませんでした。現在は金属のクリップ部分がコーティングされたセルフライゲーションブラケット装置(クリッピーC)を使用していますので、審美面ではずいぶん改善されました。
もうひとつの欠点として、ゴムでの結紮が必要なくなったため、カラーゴムを使用することができなくなりました。カラフルなゴムで治療を楽しみたいという患者様には、従来型のマルチブラケット装置を使用していただくことになります。もちろん従来型のマルチブラケット装置でも治療は十分にできますし、治りにくいということもありませんので、ご安心ください。ただ、少し痛みが強くでるかもしれません。

つい数年前まで舌側装置のセルフライゲーションブラケット装置は存在しませんでしたが、リンガルセルフライゲーションブラケット装置(クリッピーLやハーモニーシステム)の登場により、舌側矯正でもずいぶん治療がしやすくなりました。
矯正装置は日進月歩で進化しています。当院では新しい知識・装置をどんどん取り入れて、今後もより快適で安心できる治療を目指していこうと思っています。

2012月04月08日

院長 大西 秀威