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者さんご自身で着け外し可能なマウスピース型矯正装置(インビザライン)の治療では、従来の固定式のマルチブラケット装置のようにワイヤーを着ける必要は基本的にありません。しかしケースによっては、マウスピース型矯正装置(インビザライン)であってもワイヤーでの治療が必要になる場合があります。今回はどのような場合にワイヤーが必要になるのかについてお話したいと思います。
従来のマルチブラケット装置では、歯に装着したブラケットにワイヤーを固定することにより、矯正力がかかり歯が動いていきます。歯とブラケットは接着されているため、個々の歯を厳密にコントロールして正確に配列していくことが可能です。マウスピース型矯正装置(インビザライン)では、アライナーと呼ばれるマウスピース型のトレーを装着することにより歯が動いていきます。歯とアライナーは接着されているわけではないため、歯が正確に動くかどうかは歯の形態や大きさ、表面積、動かす方向などにより左右されます。
歯の形を見てみると、前歯は特徴的な四角い板状の形をしています。犬歯はとんがった形で歯の根が大きくとてもしっかりしています。その後ろの小臼歯は歯のとんがりが犬歯ほどはなく、どちらかというと丸い形をしています。一番後ろにある大臼歯は、岩のような形で非常にしっかりしており、表面積も大変大きいです。この中でマウスピース型矯正装置(インビザライン)でコントロールしやすいと言われているのは、1番前の歯である中切歯、4番目の第一小臼歯、6番目の第一大臼歯です。逆に動かしにくいと言われているのは、2番目の側切歯と3番目の犬歯、5番目の第二小臼歯、7番目の第二大臼歯です。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)で側切歯と第二小臼歯がコントロールしにくい理由は、隣に大きな歯(側切歯の隣には中切歯と犬歯、第二小臼歯には第一小臼歯と第一大臼歯)があるからです。マウスピース型矯正装置(インビザライン)を装着した時に、アライナーは大きくしっかりした歯にはぴったりとはまります。アライナーは歯に力がかかるように設計されているため、大きな歯との間にある小さな歯にたわみが集中してしまいます。そのたわみが原因で側切歯と第二小臼歯はアライナーの不適合(アンフィット)が起こりやすいのです。アンフィットが起こると、正確に力がかからないため歯が上手く動かなくなってしまいます。第二大臼歯は歯並びの最も後方にあるため、アライナーが浮きやすくアンフィットが起こりやすい部位です。犬歯は歯の根が長くしっかりしているのに対し、頭部分は尖っていて表面積が少ないので、力がかかりにくく動かしにくいのです。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)は元々歯を回転させる動きが苦手で、特に犬歯や第二小臼歯のように力が上手く伝わりにくい歯は、アライナーだけでは歯の捻じれをうまく治せないことがあります。そのような場合、補助的にワイヤーを装着して捻じれを治すことがあります。また極端に傾いている歯を真っ直ぐに起こしたり、上下の奥歯のズレが大きくアライナーだけでは合わせることが困難な場合、歯茎に埋まっていて頭部分が口の中に露出していない歯(埋伏歯)を引っ張ってくる場合などには、まずはワイヤーである程度歯を並べてからアライナーに変更するということを行います。
マウスピース型矯正装置(インビザライン)には様々なメリットがありますが、アライナーが歯にフィットして初めて矯正力が発揮されるという特性上、露出が少ない歯や小さく丸い形をしている歯をコントロールするのは苦手です。そのような場合にはワイヤーを併用したり、最初にワイヤーで部分的に配列するということを行います。マウスピース型矯正装置(インビザライン)でもワイヤーが必要になる場合があるということをご理解いただきたいと思います。
注意事項
- ※マウスピース型矯正装置(インビザライン)は医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けていない未承認医薬品です。
- ※マウスピース型矯正装置(インビザライン)はアラインテクノロジー社の製品であり、インビザラインジャパン社を介して入手しています。
- ※国内にもマウスピース型矯正装置として医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けているものは複数存在します。
- ※マウスピース型矯正装置(インビザライン)は1998年にFDA(米国食品医療品局)により医療機器として認証を受けています。
- ※マウスピース型矯正装置(インビザライン)は完成物薬機法対象外の矯正歯科装置であり、承認薬品を対象とする医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合がありあります。
2018月07月19日
院長 大西 秀威