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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)の利点・欠点

先週、ハーモニーシステムという新しい舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)のセミナーに参加いたしました。フランスのクリエル先生が開発した新しいシステムで、患者様それぞれの歯にあわせたカスタマイズブラケットで、なおかつ弱い力での歯の移動が可能なセルフライゲーションブラケットシステムが組み合わさった舌側矯正装置です。いわば当院で使用しているセルフライゲーションブラケット装置(クリッピーC)とリンガルブラケット矯正装置のいいとこどりをしたようなシステムで、今後導入しようと考えています。

舌側矯正装置は唇側矯正装置(ラビアルブラケット装置)が歯の裏側についているだけのようですが、実はいろいろと違いがあります。

舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)の利点は、

  1. 人に知られずに矯正治療することができる
  2. 虫歯になりにくい(ただし、下の歯並びのみ)
  3. 装置の特性上、前歯を引っ込めやすい

などです。

舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)の最大の利点は、なんと言っても人に知られずに矯正治療を受けることができることです。しかし、舌側矯正装置は、治療を行う我々術者にとっても見えにくい装置でもあります。装置をつけるとき、唇側のマルチブラケット装置は目で見て直接歯につけていきますが、舌側矯正装置ではそれはできません。われわれ術者も見えないからです。舌側矯正装置ではまず歯の精密な型取りを行い、最終的な歯並びをシュミレートし、それに合わせた個々の装置を技工所で作製します。そして、そのカスタマイズされた装置を皆様の歯に装着していきます。そのため歯の型取りをしてから装置の装着まで1~2ヶ月必要になります。

お口の中には唾液による自浄作用というものがあります。お口の中を唾液が循環することにより、歯についた汚れを落とし、歯を再石灰化することにより虫歯になるのを防いでいます。歯の裏側に装置がついているため唾液が循環し、舌側矯正装置は虫歯ができにくいのです(ただし、下の歯並びのみです)。もちろんブラッシングがしっかりできていないと、舌側矯正装置でも虫歯ができてしまうこともあります。

舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)の欠点は、

  1. ブラッシングが難しい
  2. 舌に傷ができたり、しゃべりにくいことがある(装置やシステムの改善で最近はほとんど問題ありません)
  3. 唇側矯正装置より治療期間が多少長くなる可能性がある(装置やシステムの進歩により最近はあまり差はありません)
  4. 歯の高さが極端に低い患者様の場合、歯茎の切除などを行わないと装置をつけられない場合がある
  5. 唇側矯正装置より治療費が高い

などがあります。

外側から見えないのが舌側矯正装置の最大の利点ですが、最大の欠点でもあります。ブラッシングの際、患者様ご自身でも装置が見えないので、お手入れが非常に難しくなります。唇側矯正装置より虫歯はできにくいですが、歯茎の炎症(歯肉炎)は起こしやすので注意が必要です。ブラッシングが悪いと歯を支えている歯茎が弱ってしまう危険性があります。

舌側矯正装置は歯の裏側に装置がつきますので、唇側矯正装置より違和感はどうしても大きくなってしまいます。かつての舌側矯正装置は装置自体に厚みがかなりあり、違和感も大きかったのですが、ここ数年の舌側矯正装置の進歩は目覚しく、装置がずいぶんと小さくなり効率的になってきていますので、違和感や傷ができるということはかなり少なくなってきています。

治療期間については、かつての舌側矯正装置は唇側矯正装置に比べ歯が動きにくく、半年~1年程度治療期間が長くなる場合がありました。最近では装置やシステムの進歩により、治療期間は唇側矯正装置とあまり変わらなくなってきています。

舌側矯正装置にはさまざまな利点・欠点がありますが、ここ最近の装置やシステムの進歩により、欠点はかなり克服されてきていますので、舌側矯正装置(リンガルブラケット矯正装置)をご希望の際は何なりとお気軽にご相談ください。

2011月12月03日

院長 大西 秀威