Column

院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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部分的に治療するのは、実はすごく難しいのです

部分矯正(治療前)部分矯正(治療後)

皆様からのお問い合わせやご要望でよくいただくのが、「上の歯並びだけ治療したい」「奥歯だけ治したい」「上顎には装置を付けたくない」などの部分的に治療したいというご希望です。できるだけ装置を付ける部分を少なくして、目立たないように、早く治療を終えたいというお気持ちは痛いほど理解できるのですが、私は基本的に部分矯正はお勧めしていません。それはなぜなのかというお話をしたいと思います。

「歯並び」「咬み合わせ」を治すのが矯正治療の大きな目的ですが、「歯並び」と「咬み合わせ」は似て非なるものです。「歯並び」は、「上の歯並び」や「下の歯並び」などと言うように、単純に上顎または下顎の「歯の並び」を指す言葉で、上下別々に表現します。ですから、上の歯並びは綺麗だけど、下の歯並びは悪いなどということもあります。それに対し「咬み合わせ」は、「上下の咬み合わせ」とは言いますが「上(または下)の咬み合わせ」とは決して言わないように、あくまで「上下の歯の咬み合い方」を指す言葉です。両者はもちろん密接に関連していますが、「歯並び」=「咬み合わせ」ではありません。「歯並び」≠「咬み合わせ」ですので、歯並びは綺麗だけど、咬み合わせは悪いということも十分にあり得ます。

例えば歯のガタガタやデコボコがあると、歯並びも咬み合わせも良くないということになります。歯並びや咬み合わせはよくありませんが、その状態で安定してご飯を食べたり、咬み合わせたりすることはできる状態です。しかし、もし仮に上顎だけを治療したいと思って、片側の歯並びだけを綺麗にしたとすると、上だけ歯並びだけが綺麗に並び、下の歯並びのガタガタはそのままという状態になってしまいます。上顎の歯並びだけが綺麗になってしまうと、それまでそれなりに咬んでいた下顎と咬み合わなくなってしまいます。歯並びは綺麗になったのに、咬み合わせは悪くなったという状態です。こうなってしまうと、上下の歯は一部分しか咬み合いませんし、それまでそれなりに咬めていたものが、全然咬めなくなってしまいます。これでは歯並びは綺麗になったと言っても、咬み合わせは改善どころか改悪になってしまいます。何のために矯正治療したの全く分からなくなってしまいます。

このように「歯並び」を変えるということは、同時に「咬み合わせ」も変わってしまうということでもあります。上の歯並びを綺麗にするのであれば、それに合わせて下の歯並びも綺麗に並べて咬み合わせを合わせないと、上下の歯は緊密に咬むことができません。部分的に治療しようとすると、ガタガタが残っている反対側の歯並びに咬み合うように歯を並べていかないと緊密な咬み合わせにならないので、美しい歯並びになりません。それでは治療する意味がありません。部分的に治療可能なのは、元々咬み合って無い歯を部分的に治療する場合や、奥歯は綺麗に咬んでいて、前歯のわずかなガタガタや隙間を治療する場合など限られた条件の場合のみです。矯正治療は、上下の歯並びを同時に治療するのが大原則なのです。

これから矯正治療をお考えの方で、上の前歯に装置を付けるのに抵抗があるという方には、舌側からの装置もありますので、例え歯並びで気になる部分が前歯の一部分や奥の歯一本だけであったとしても、上下の歯並びを一緒に治療するのが基本だとご理解いただきたいと思います。

2014月09月09日

院長 大西 秀威