前回のコラムで、口角の位置により周囲が受ける印象は大きく異なることと、外科矯正することにより口角の位置は変化するというお話をいたしました。今回は、なぜ外科矯正することにより口角の位置が変わるのかを、口角と骨格、筋肉の関係を含めてお話したいと思います。
そもそも唇というのはどのような構造になっているのかというと、口輪筋という文字通り輪っかのような筋肉が口の周囲にあり、口輪筋の力で口を閉じたり、丸めたり、すぼめたりしています。口輪筋には様々な筋肉がくっついていて、左右の端の部分すなわち口角にあたる部分には、口角を上方向に引っ張る作用がある口角挙筋と大頬骨筋、口角を横方向に引っ張る笑筋、口角を下方向に引っ張る口角下制筋がついています。これらの筋肉の作用のバランスによって、口角を挙げたり、下げたりして表情を作っています。
日本人は欧米人に比べ、口角を挙げて笑うことが苦手と言われています。欧米人は口角挙筋と大頬骨筋をよく使って笑っているのに対し、日本人はあまり使っていないからです。なぜそんな違いができるのかというと、欧米では、笑った時に口角がキリッと挙がり、綺麗に並んだ上の歯が思いっきり見え、笑った時の唇の形に合わせて歯並びが並んで見える笑い方、いわゆる「ハリウッドスマイル」が最も美しい笑い方とされています。多くの民族や人種が共存している欧米では、思いっきり笑うことで、相手に安心感を与えたり、誠実さや敵意がないことを示す必要があったため、はっきりとした笑い方が好ましいという文化になったのだと思います。
それに対し日本では、女性が口元を手で隠しながら笑ったりするように、思いっきり笑うことを恥ずかしいと考えたり、歯茎が見えるような歯がいっぱい見える笑い方は好ましくないという意識があり、口角が思いっきり挙がるような笑い方はあまりしません。そのため日本人は、欧米人のようには口角を挙げる筋肉があまり発達していません。欧米人のような笑い方をしたくても、日本人にはなかなかうまくできないことが多いです。日本人のような笑い方は、欧米人にとっては心底笑っているようには感じられず、失礼な印象を与えてしまうこともあります。
このように、日本人は口角を挙げる筋肉が発達していないため、口角が下がった「への字口」に自然となりやすいのです。さらに、前回のコラムの患者さんのように骨格性の下顎前突になっていると、上唇の位置はあまり変化しないのに対し、下顎が上顎より前に出ている分、口角部分では口角下制筋がより前下方に斜めに走ることになってしまいます。結果として、口角は前下方に引っ張られ、口角が下がったようになってしまいますので、より「への字口」になりやすくなってしまうのです。
外科矯正することにより、歯や骨、筋肉の位置がバランスのとれた状態になるため、親しみやすく魅力的な表情を作りやすくなります。矯正治療の目的は、単に歯並びや咬み合わせをよくするだけではありません。より自然で、より魅力的な笑顔や表情を作ることも大きな目的の一つなのです。
2015月05月14日
院長 大西 秀威