Column

院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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できることとできないこと

当院は患者様とのコミュニケーションを大切にすることをモットーにしています。矯正治療は長丁場になりますので、患者様との信頼関係がないと矯正治療は成功しないと考えているからです。そのため、患者様のご要望をできるだけ考慮し、最善の方法を患者様と模索し、提案するように努めています。しかし、ご要望をいただいても、できることとできないまたはやらない方がよいこともあります。

例えば、八重歯を残して矯正治療して欲しいというご希望を言われることがあります。以前のコラムにも書きましたが、日本には「八重歯がかわいい」と言われる時代がありました。矯正治療がまだ一般的ではなかったという事情もあったとは思いますが、以前は八重歯の芸能人やアイドルがたくさんいました。最近はずいぶん少なくなりましたが、それでも八重歯の芸能人やアイドルは散見され、日本には「八重歯がかわいい」という認識が残念ながら残っています。

八重歯を残して治療して欲しいと言われると、正直なところ私は非常に困惑します。それを治すのが矯正治療なんだけどって心の中で思います。やろうと思えば八重歯を残して矯正治療することは可能かもしれません。しかし、上の歯の八重歯を残して治療するということは、下の歯のガタガタも残ったまま矯正を終了しないといけなくなるため、完全な歯並びや咬み合わせにすることは不可能ですし、治療としてはナンセンスです。そのため当院では、このような要望をお聞きすることはできません。もしこのような要望を引き受ける先生がおられたら、歯医者としての見識を疑ってしまいます。

それと関連して、完璧にならなくてもいいので治療期間を短くして欲しいと言われることがあります。これも言われると非常に困ることの一つです。矯正治療は基本的に歯並び全体を動かしていきますので、完璧を目指して治療しないと、中途半端な咬み合わせで終わってしまいます。どんなに見た目には問題ないレベルに仕上がっても、咬み合わせが中途半端では、しっかりとものを咬むことができず、治療前よりむしろ咬み合わせが悪くなる可能性もあります。咬み合わせが上手くいかないことにより、顎の関節や体全体に問題がでてくることもありえますので、治療しないほうがよかったと後悔することになりかねません。中途半端は一番良くないと思います。

外科矯正が必要と診断された患者さんが、外科矯正なしで治療できませんかと言われることもあります。これはケースバイケースで可能なこともあります。極端な受け口(下顎前突)ではどうしても外科矯正が必要になる場合が多いですが、上顎前突や開咬、ガミースマイルなどの場合は、外科矯正が最善と考えられた場合でも、歯科矯正用アンカースクリューを併用することにより通常の矯正治療で治療可能な場合も多々あります。もし他院で外科矯正と診断され、外科矯正を避けたいとご希望になる方がおられましたら、一度ご相談いただけたらと思います。

それとよくあるのが、抜歯が必要と言われた患者さんが、抜歯しないで治療して欲しいと希望される場合です。これもケースバイケースなのですが、抜歯しないで治療可能な場合もあります。症例によっては必ず抜歯しないといけない場合と抜歯非抜歯両方で治療可能という場合があります。どう考えても必ず抜歯が必要な場合はいかんともしがたいのですが、普通に考えれば抜歯が必要だけど、非抜歯でも何とか治療可能というような場合もあります。しかしながら両方で治療可能な場合でも、治療期間はもちろんのこと、治療結果は抜歯非抜歯で変わってきます。抜歯する場合としない場合では顔立ちにも変化がでますので、同じような治療結果になるわけではありません。

私自身がかつて矯正患者で、小臼歯を4本抜いて治療しました。そのとき私はまだ高校生で、「なんで健康な歯を抜くんやろう、もったいないなあ」と思ったのをよく覚えています。私の場合は、治療後に親知らずも4本抜歯しました。自分の経験から歯を抜きたくないという患者様のお気持ちはよくわかります。非抜歯で治療できる場合とできない場合がありますが、どうしても歯を抜きたくないとご希望になる方は、お気軽にご相談ください。

2014月03月10日

院長 大西 秀威