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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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喫煙されている方の矯正治療について

当院に矯正相談に来られる患者さんの中にはタバコを吸われている方がおられます。ライトスモーカーからヘビースモーカーの方まで様々な方がおられますが、女性の方で喫煙されいる方が増えている気がします。今回は喫煙されている方への当院の対応についてお話させていただきたいと思います。

矯正治療とタバコ

矯正治療するに当たって、喫煙されているとお口の中の環境に様々な影響があります。考えられる問題としては、

1. 歯茎への影響
2. 歯の移動への影響
3. 見た目への影響

が挙げられます。

喫煙が歯周病のリスク要因になることはよく知られています。一説では、1日10本以上喫煙すると、歯周病にかかる危険は5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に増加し、重症化しやすくなると言われています。また歯周病の治療を行っても改善がしにくくなります。

その原因は何かというと、タバコに含まれているニコチンです。ニコチンには血管収縮作用があり、歯茎の毛細血管の血流量の減少、ヘモグロビン量及び酸素飽和度の低下を起こします。歯茎への血流量が減少するため、歯茎に炎症が起こっていても出血は少なく、歯周病は一見進んでいないように見えます。矯正治療でブラケット装置などを着けていると、歯磨きにはとても時間がかかるようになります。しっかりとブラッシングできないと、歯茎が炎症を起こし、炎症を起こしてもわかりにくいため、気づいたときには歯周病がすごく進行しているということになりかねません。

またニコチンは、体の免疫機構にも問題を起こします。白血球の一種である好中球やマクロファージの機能を低下させ、粘膜面での局所免疫に関与する免疫グロブリンAや細菌やウィルス、薬物に対して生体反応を示す免疫グロブリンGの低下をもたらします。また、ニコチンは組織を再生する線維芽細胞の増殖や機能を抑制し、コラーゲン産生能を低下させますので、歯周組織の再生も起こりにくくなります。矯正治療では歯周組織の破壊と再生が常に起こって歯が動きます(詳しくは以前のコラムを参照)。ニコチンにより歯茎の血流量が減少し、組織の再生が制限されることにより、歯の移動が妨げられ、歯周組織の破壊が進んでしまう可能性があります。

加えて、タバコを吸っていると歯や装置にヤニがついてきます。装置がついていると、舌や唾液の自浄作用が働きにくくなるため、特にヤニが付きやすくなります。ヤニがつくと細菌が付着しやすくなるばかりではなく、ヤニの中からニコチンが放出され続けることになってしまいます。また、ヤニによって歯や装置の表面の滑りが悪くなって抵抗が増えてしまいますので、歯の動きが悪くなり、治療期間が長くなってしまう原因になります。

装置がついていると、ヤニを落とすことは非常に難しくなります。当院で専門的に洗浄を行っても、装置の際などはどうしても完全に落としきれない場合があります。装置を外した後にきれいに磨けば、最終的にはヤニを落とすことはもちろん可能ですが、装置がついている間ヤニがついて変色した装置や歯で過ごさないといけなくなりますので、見た目にも問題がでてきます。また口臭の原因にもなります。

このように喫煙されている方を矯正治療するとなると、様々な問題が起こる可能性があります。矯正治療している間に、歯周組織が弱ってしまい、結果的に歯がダメになってしまったり、歯が長持ちしなくなってしまうようでは本末転倒です。矯正治療している意味がなくなってしまいます。そのため、当院では喫煙されている方の治療はお断りさせていただいています。禁煙していただければ、治療をお引き受けさせていただいておりますので、何卒ご理解いただきますようにお願いいたします。


2018月12月09日

院長 大西 秀威