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院長が日々診療するうちに思う雑感を記す矯正コラムです。

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今こそ鼻呼吸を!鼻は「天然のマスク」です。

鼻腔(側面)鼻腔(正面)

昨今、コロナウィルスの感染パンデミックで、社会情勢が大変不安定になっています。流行のピークはいつなのか、いつ頃終息に向かうのか、今の所全く先行きが不透明な状態です。私たち歯科業界では、マスクだけではなく、グローブや紙エプロンなどが入手困難になってきています。当分の間は患者さんにご迷惑をおかけすることはないと思いますが、今後の見通しが立たず、大変困惑しているところです。今、医療崩壊を起こさないために個々の自覚ある行動が求められています。「三密(密閉、密集、密接」を避けること、「ウィルスを撒き散らさない」「ウィルスを取り込まない」ことが必要です。

マスクの効果については、様々に言われています。マスクをしても意味が無いという人もいれば、マスクを絶対するべきだと言う人もいます。市販のマスクの網目の大きさは10~100μm(サージカルマスクで5μm、1μm=0.001mm)と言われています。それに対し、細菌の大きさは約1μm程度、コロナウィルスやインフルエンザウィルスの大きさは約0.1μm程度で、マスクの網目よりはるかに小さく、ウィルスが空気感染する場合はマスクで捕捉することはできません。新型コロナウィルスは空気感染しているという説もありますが、一般的にはインフルエンザウィルスのように咳やくしゃみなどで飛沫感染すると考えられています。ウィルスが水分やホコリにくっついて飛沫となりますが、そのサイズは約5μm程度と言われており、マスクで捕捉できるかどうかはかなり微妙なところです。ある程度は防止効果があるかもしれませんが、市販のマスクでは鼻の横や頬の部分などにどうしても隙間ができてしまいます。そういった部分からは自由にウィルスが流入してしまいます。マスクの効果について学術的な研究が行われていますが、論文で判断する限り残念ながら市販のマスクに予防効果は無いまたは限定的と考えた方がよさそうです。ではマスクに何の効果もないかというとそうではなく、くしゃみや咳などの飛沫は半径1~2mm範囲に広がると言われており、飛沫を撒き散らさないという効果は大いに認められます。特に今回の新型コロナウィルスでは、感染者の約25%が無症状と言われおり、無自覚にウィルス感染を拡大しないためにもマスクの着用を推奨すべきと思います。

マスクが「ウィルスを撒き散らさない」手段であるとすれば、「ウィルスを取り込まない」ようにするにはどうすればいいのでしょうか?答えはとてもシンプルです。鼻呼吸です。鼻の構造はどうなっているかというと、真ん中にある鼻中隔(びちゅうかく)という骨で左右の鼻腔が分けられおり、側面の部分から横に3つの骨が張り出しています。上から順に上鼻甲介(じょうびこうかい)、 中鼻甲介(ちゅうびこうかい)、 下鼻甲介(かびこうかい)と呼ばれています。この3つの鼻甲介と側面の間の空気の通り道を上から順に上鼻道、 中鼻道、 下鼻道と言います。鼻道はとても狭く曲がりくねっており、表面積が大きくなるようになっています。鼻道はとても湿潤な環境で、冬場の冷たい空気を吸い込んでも鼻腔で温められ、乾燥した空気を加湿する効果があります。インフルエンザウイルスが冬場に流行するのは、寒冷乾燥を好み、高温多湿に弱いからで、鼻道を通過することによりウィルスの感染力を下げることができます。また鼻道の中には粘液が流れ、多くの線毛が生えています。この粘液と線毛で空気中の細菌やウィルス、ホコリを捕らえ、吸着、除去する働きがあります。鼻の奥には咽頭扁桃(アデノイド)が存在します。鼻道を通った空気は、アデノイドに触れて体内に取り込まれます。アデノイドはいわゆる扁桃腺の一つで免疫機能を担っています。アデノイドで捕らえられた細菌やウィルスに対し、免疫応答が起こり、不活化、死滅されます。

このように鼻というのは、空気中の微生物やホコリなどを体内に取り込まないように様々なレベル、手段、あの手この手で天然のフィルターの役割を果たしています。口呼吸をしていると風邪をひきやすい、インフルエンザに罹りやすいとよく言われますが、その理由はここにあります。口は本来摂食、咀嚼する器官であり、呼吸する器官ではありません。呼吸する器官ではない口には鼻のようなフィルター機能がなく、口呼吸すると空気中の微生物やホコリをそのまま体内に取り込んでしまう結果になります。もちろん鼻呼吸したからといって細菌やウィルスの侵入を完全に抑えることはできませんが、口呼吸に比べると大きな予防効果があります。鼻呼吸は「天然のマスク」と言っても過言ではありません。

ここで一つ注意があります。マスクをしていると、どうしても息苦しく感じられ、知らず知らずに口呼吸になってしまう場合があります。呼吸は無意識で行っているため、口呼吸をしていることに気づかないことが多いです。実は1日中マスクを着用している医療関係者には、マスク使用時に口呼吸になっている人が多くいます。口呼吸になっていると鼻呼吸の「天然のマスク」効果が発揮されませんので、マスクを通過した空気をそのまま体内に取り込んでしまいます。「ウィルスを撒き散らさない」「ウィルスを取り込まない」ためには、マスクを着用し鼻呼吸をすることが大切です。それによりマスクの効果を最大限に発揮することができるのです。

2020月04月05日

院長 大西 秀威