ご無沙汰しております。約半年ぶりの更新となってしまいました。
今回は当院での小児矯正のお話です。当院では、子供の矯正にFKOというマウスピース型装置を使用することが多いです。というのも、この装置は適応範囲が広く、様々な症例に適応可能なことや装置を真面目に頑張ってもられば劇的な効果や他の装置ではできないような変化を期待できるからです。今回はFKOについてお話したいと思います。
FKOというのはドイツ語の「Funktionskieferorthopädie」の略で「エフ・カー・オー」と読みます。日本語に略すと「機能的顎整形」といった意味になります。英語では「Activator(アクチベイター)」と言い、活性化剤といったような意味合いです。「機能的」や「活性化」と名前に入っているのには理由があります。通常の矯正装置では、スプリングやゴム、ワイヤーなど装置自体が機械的な力を発揮して、歯に力が掛かるように設計されています(機械的矯正装置)。一方FKOでは、装置自体の力ではなく、装置を装着することにより生まれる筋肉や粘膜の力、ホメオスタシス(恒常性)、適応性など本来体がもつ自然な力や機能を活性化することにより効果を発揮します(機能的矯正装置)。
FKOという装置自体は、最新のものでもなければ特殊な装置でもありません。元々は 1936年にノルウェーのAndresenという先生が開発されたもので、100年近い歴史がある古典的な装置とも言えます。元は上顎前突(出っ歯)の治療に使用された装置で、当院ではオリジナルのアレンジを加えることにより、様々な症例に適応できるように工夫しています。装置は上下が一体になった入れ歯のような装置で、上下の歯で咬んでおくだけの装置です。この咬んでおくというのがポイントで、咬むことにより周囲の筋肉や粘膜が活性化され、咬み合わせ全体を変化させる大きな効果が生まれます。この装置は子供の成長力を利用しますので、成長力が旺盛な時期でないと効果がありません。目安してはおおむね7~12歳ころのお子さんに使用します。装置は基本的には1日の半分、12時間以上を目標に着けていただくようにお伝えしています。装置の装着時間が短いと当然のことながら効果がありませんので、お子さんの協力や頑張りがどうしても必要になる装置です。
この装置は様々な症例に有効なのですが、
- 上顎前突(出っ歯)
- 下顎前突(受け口、ただし切端咬合が可能な場合)
- 顎偏位(顎の歪み、上下正中のずれ)
などでよく使用します。特に顎偏位(顎の歪み)は、他の装置では改善に苦労することが多いのですが、FKOでは効果が期待できます。以前、小児の顎偏位になかなか良い治療法がなく、悩んでいた頃がありましたが、今はFKOをアレンジして使用することにより多くの症例で改善が可能となっています。また、装置の機械的な力ではなく、子供の持つ自然な機能や成長力を利用して効果が発揮されるため、無理なく治療できるところも非常に良いポイントだと感じています。
出っ歯や受け口、顎の歪みを治せるのであれば、ほぼ万能な装置のように感じますが、やはり欠点もあります。
代表的な欠点として、
- お子さんの協力や頑張りがどうしても必要
- 成長が止まってしまうと効果がない
- 成長力が乏しい場合、開咬などの望ましくない効果がでる場合がある
- 元々開咬のお子さんの使用には特に注意が必要
この装置はお子さんの機能や成長力を利用して治療するため、成長力があまりない場合や成長が装置の効果に追いついていかないような場合、良くない反応(副作用)が出てしまいます。よく起こる望ましくない反応は開咬(前歯が咬み合わない)になってしまうことです。FKOを頑張れば頑張るほど、上下の前歯が開いてきてしまうことがあります。いくら奥歯の咬み合わせが良くなっても、前歯が咬み合わなくなってしまっては、トータルとして咬み合わせは全く良くなっていませんので、このような場合は装置の使用を中断し、他のプランを検討することになります。そのため、元々開咬のお子さんへの使用は特に慎重に行う必要があります。
正直なところ、FKOはあまり効果がないと言われる先生もおられます。Andresen先生の原法のまま使用すると、効果が限定的なことは確かです。私も過去にあまり使用していなかった時期があります。しかし、FKOを装着する前に準備的な治療を適切に行い、装置に当院オリジナルのアレンジを加えることにより、顎の歪みなど様々な症例に効果が期待できるようになりました。FKOは幅広い症例に適応可能で、なおかつ大きな効果が期待できるため、現在当院では良く使用しています。装置は上下の歯で咬んでおくだけですので使用も簡便で、食事や歯磨きの際は外すことが可能ですので、お子さんへの負担も少なくできます。個人的にはこんないい装置はなかなか無いなと思っています。ご興味のある方は、当院までお気軽にお問合せください。
2023月03月09日
院長 大西 秀威