正しい咬み合わせ、いわゆる「正常咬合」というと、どんなイメージを持たれるでしょうか?歯医者さんによくおいてある歯並びの模型を想像される方もおられるかもしれません。矯正治療をするとどんな人でも模型のような歯並びになると思われるかもしれませんが、必ずしもそうならないこともあります。矯正治療では、歯並びや咬み合わせ、骨格、顔立ち等を総合的に判断して治療を行っていきますが、そのゴールは「正常咬合」です。今回は矯正治療の目指す「正常咬合」とは一体何なのかというお話をして行きたいと思います。
一般に「正常咬合」というとこういうものと一つに決まっているようなイメージがありますが、実はそうではありません。以下のように正常咬合にもいくつか種類があります。
・理想(仮想)正常咬合
・典型正常咬合
・個性正常咬合
・機能正常咬合
・歴齢正常咬合
等です。
「理想(仮想)正常咬合」とは、骨格的な大きさやバランス、対称性が正常で、歯の形態、大きさ、萌出状態も正常で、歯の機能を最大に発揮できるような最も理想的な状態を仮想した状態のことを言います。簡単にいうとすべての条件をパーフェクトに満たしている咬合状態のことです。簡単に言うと、歯科医院に置いてある模型の歯並びの状態です。最も理想的な咬合ですが、骨格や歯の大きさ、バランス、機能的な条件等をすべてパーフェクトに満たしている方は現実的にはほぼおられないので、理想的ではあるけれども仮想の咬合状態ということでもあります。
「典型正常咬合」とは、人種的または民族的に共通した特徴を持っている正常咬合のことを言います。人種や民族によって骨格の大きさやバランスは異なりますし、歯の大きさや形態にも差があるため、正常咬合は人種的、民族的にも違いが生まれます。いわゆるコーカソイド(白人)の人は、前歯が細長く、また骨格的に奥行きが長いため、歯並び全体が横に細く、縦に長い、どちらかというV字型に近い歯並びの形態をしています。一方モンゴロイド(黄色人種)は、前歯が四角く、骨格的な奥行きが短いため、歯並びが横に広い、U字型か放物線型の歯並びの形態をしています。白人に比べ黄色人種は、歯並びの縦の長さが短いにもかかわらず、前歯の大きさが相対的に大きいため、白人より黄色人種の方が歯のガタガタが多い理由の一つになっています。依然のブログに説明させていただいように、欧米で行われてるような非抜歯治療をそのまま日本人にはあてはめられない理由の一つでもあります。
「個性正常咬合」とは、個々人の歯の大きさや形態、萌出状態、顎の大きさ、形態、バランスなどを考慮して、個人差を認めて正常範囲内にあると考えられる咬合状態のことを言います。そのため、各個人によって咬合状態は少し違いがあります。骨格が完全に左右対称な方はおられませんし、顎の大きさやバランスは各々の人によって異なります。歯の大きさも当然違います。そうすると、左右で歯の大きさが異なったり、上下でバランスが違ったりということは当然起こります。その持って生まれた条件の中で、正常範囲内にあると考えられる咬合状態のことを「個性正常咬合」と言います。矯正治療で目指すいわゆる「正常咬合」は、「個性正常咬合」のことを言います。
「機能正常咬合」とは、「歯が欠けた」「歯の治療をした」「歯ぎしりで歯が削れた」等で歯の形態的には多少の欠陥があっても、咀嚼・発音等の機能的には異常を認めない咬合状態のことを言います。矯正治療で目指すゴールが「機能正常咬合」になることもあります。機能正常咬合は機能的には問題ないが、形態的には問題があるという状態のため、矯正治療後に被せ物の治療(補綴処置)で形態を整えることにより、「個性正常咬合」にすることも可能です。
「歴齢正常咬合」とは、それぞれの人の年齢に応じた正常咬合のことを言います。歯はずっと使っていると、どうしても歯が削れてしまうため、元々の形態からは変わっていきます。歯の形態が変わっていくと、それに伴って咬み合わせも徐々に変化していきます。その年齢的な変化を加味した正常咬合のことで、幼少期からの長い年月で自然に獲得された正常咬合の状態です。
上記のように一言に「正常咬合」と言っても色んな定義があります。矯正治療後に「上下正中があっていないけど大丈夫ですか?」と質問を受けることがありますが、元々下顎の左右への歪みがあると、どうしても上下正中を合わせられない場合があります。例え正中が合っていなくても、上下の咬合関係が緊密で、機能的にも形態的にも適切な咬み合わせになっていれば、咬み合わせ全体としては問題ありません。逆に上下の正中が合っていても、臼歯の咬合関係が合っていなければ、意味がありません。矯正治療が目指すゴールというのは、個々の患者さんに合わせた咬み合わせのゴールであることをご理解いただけたらと思います。
2025月12月07日
院長 大西 秀威










