「食べる」とは何なのか?【後編】

ルドルフ・シェーンハイマー前回のコラムで、シェーンハイマーは、全身のタンパク質はもの凄いスピードで破壊されると同時に、 新しいタンパク質が作られ、置き換わっていることを発見したというお話をしました。シェーンハイマーはさらに、水素の安定同位体、重水素(2H)で標識された脂肪酸を用いて同様の実験を行いました。その結果は予想外のものでした。シェーンハイマーは、摂取された脂肪酸のほとんどは燃焼され、ごくわずかだけが体内に蓄えられると予想していました。しかし、標識された脂肪酸は、組織内の科学的に全く同じ脂肪酸に置き換わるだけではなく、変性や飽和化、不飽和化、分解、延長などの変化をしながら急速に組織成分に取り込まれました。マウスの体重が減少しているときでさえ、標識された脂肪酸の大部分は、組織に蓄積されました。脂肪は吸収された後、そのまま直接代謝分解され、燃焼されるわけではなく、貯蔵された脂肪から取り出して燃焼されていたのです。驚くべきことに、余分なエネルギーの貯蔵プールと考えられていた脂肪組織でさえ、常に分解と再構築をしながら取り込みと排出を繰り返していたのです。

彼の実験から、食物と生体との持続的で急速な科学的相互作用によって貯蔵プールは形成され、体が見かけ上変化しないように見えるのは(これを恒常性といいます)、きめ細やかなバランスのとれた化学反応の結果であることがわかったのです。彼は「燃料(栄養)だけではなく、構造材料(身体組織)も安定した”流れ”の中にある。」「生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。」と述べています。

人間の体は約60兆個の細胞からできており、その細胞自身も新陳代謝を繰り返しながら、日々新しい細胞に入れ替わっています。その周期は、例えば小腸の上皮で約2日、胃は約5日、肌は約28日、筋肉(心筋を除く)や肝臓は約60日、骨は約90日と言われています。シェーンハイマーの実験により、多くの細胞が生まれ変わる前に、生きたまま物凄い速さで分子レベルで作りかえられていることがわかったのです。シェーンハイマーは、このような化学物質の継続的な取り込みと排出を”代謝再生(metabolic regeneration)”と呼びました。

このようなことを知ると、日々の食事がどれほど大切かということが浮き彫りになります。成長期にある子供だけではなく、成長の終了した大人にとっても、日々食べている食べ物が、血となり肉となり、細胞となり、自分自身を形成するのです。バランスのよい食事をすること、栄養をしっかりと摂ること、食べたものをしっかり消化吸収することがいかに大切かがわかっていただけたかと思います。

ちなみに、「お肌がツルツルになるからと、コラーゲンを多く含む食べ物を食べる」とか「皮膚の潤いを保つために『食べるヒアルロン酸』『飲むヒアルロン酸』を摂取する」ことがナンセンスであることもわかっていただけると思います。コラーゲンもヒアルロン酸も、例え吸収されても体内で分解されてしまいます。そこから再び皮膚のコラーゲンや関節のヒアルロン酸に再合成される確率は天文学的に低く、元々の食品がコラーゲンやヒアルロン酸であるからと言って、再合成される可能性が高くなるわけではありません。

 

2015年9月10日

院長 大西 秀威