「食べる」とは何なのか?【前編】

ネズミと15H標識されたチーズ 分子レベル 重窒素の体中への分配

矯正治療の目的は、歯並びを綺麗にして、見た目を良くすることはもちろんですが、咬み合わせを良くすることにより、しっかり咬んで、食べ物を消化しやすい歯並びを作り、健康増進に寄与することも大きな目的の一つです。当然のことながら、人間は「食べる」という行為なしには生きていくことはできません。現在では医療技術の発達により、点滴や胃廔カテーテルなどで生きていくことも可能かもしれませんが、健康的な生活とは言えません。人間が生きていく根本に「食べる」という行為を欠くことはできません。

「食べる」というと、何となく「食べる」=「食事を摂る」=「栄養を摂る」というイメージを持たれている方が多いと思います。「食べないと元気がでないよ」などとよく言うように、食事=エネルギー源と思われがちです。車に例えると、体は車のボディで、食事はガソリンのようなイメージです。ガソリンを体内で燃やし、燃えカスは排ガス(排泄物)として排出する。しかし、実はこれは半分正しく、半分正しくありません。

かつてアメリカに、ルドルフ・シェーンハイマー(Rudolf Schoenheimer、1898-1941)という生化学者がいました。彼は、体内で食べ物がどのように燃焼され、排出されるのか調べるために、窒素の安定同位体である重窒素(15N)で標識されたロイシンというアミノ酸を含むエサを3日間ネズミに与える実験を行いました。実験前には、彼はロイシンは すぐに体内に取り込まれて、生命維持のためのエネルギー源として使われ, 重窒素はすべて排泄物として体外に排出されるだろうと考えていました。

しかし、結果は全く異なっていました。体外に排泄されたのは投与量の29.6%(尿中27.4%、糞中2.2%)だけで、重窒素の半分以上の56.5%が体を構成するタンパク質の中に取り込まれていました。しかも頭の先から尻尾の先まで目や脳を含む体のありとあらゆる組織に取り込まれていました。ネズミは成長を過ぎた成熟した個体であったため、その間に体重の変化はなく、 全身のタンパク質がもの凄いスピードで破壊されると同時に, 新しいタンパク質が作られ、置き換わっていることがわかったのです。

また、ロイシンがロイシンに置き換わっているわけではないこともわかりました。 重窒素はロイシン以外のあらゆるアミノ酸から検出されたからです。つまり、取り込まれたアミノ酸は、腸で吸収されてから分子レベルに分解、再分配され、改めて必要なアミノ酸に再構築されていました。

この実験でわかったことは、

  1. ・食物は、体内に取り込まれる際に、 既存の物質と置き換わるように、取り込まれる。
  2. ・食物は、体内に吸収された後、一旦分子レベルに分解され、必要な有機物に再構築される。
  3. ・体内の組織は、絶えず物質を入換え、再構築することによって、生命を維持している

という驚くべきものでした。

2015年8月30日

院長 大西 秀威