矯正治療はなぜ時間がかかるの?

歯の移動のメカニズム

早く矯正治療を終えたい。できれば、治療期間を短くしたい。
これはみなさんが共通して抱くご希望だと思います。

技術や装置、材料の進歩により、矯正治療の治療期間は以前より少しづつ短くなってきています。近年その進歩はめざましいものがあり、僕の感覚としては大学で矯正治療を勉強し始めたときより、3~6ヶ月くらい治療期間は短くなってきているかなあと感じます。

でも残念ながら、どんな装置や方法を使用しても、治療期間がいきなり2年から半年になったりすることはありません。様々なことができるだけ早く手短にとなりつつある最近の社会情勢の中で、矯正治療は通常年単位での治療期間が必要になります(もちろん治療方法によっては、もっと早いこともあります)。
これは毎日診療していて、僕自身非常に歯痒く感じるところでもあります。ではなぜ矯正治療はそんなに時間が必要になるのでしょうか?

歯は歯槽骨という硬い組織の中に萌えています。歯や歯茎が健康な方は、ご自身の指で歯を少し揺すってみてください。当然ビクともしないと思います。到底歯が骨の中を動いていきそうにありませんよね?でも、よく見ると歯が0.1~0.2mmくらいほんのわずかに揺れていると思います。実はこれが歯が骨の中を動いてくれるミソなのです。

歯は骨の中に直接萌えているわけではなく、歯と骨の間には歯根膜(歯周靭帯)という軟組織があります。この歯根膜は厚みが約0.2mmあり、指で触ってほんの少し歯が揺れるのは歯根膜があるためです。歯根膜の主成分は歯を支えるコラーゲンで、その他血管やリンパ管が通っています。

歯に力が加えられると、歯は力を加えられた反対側の骨に押し付けられ、歯根膜は圧迫されます。これを圧迫側といいます。また力を加えられた側では歯は骨から引っ張られ、歯根膜が伸びてしまいます。これを牽引側といいます。歯を指で揺する場合のように加えられた力が一時的な場合は、圧迫・牽引された歯根膜は復元し、歯は元の状態に戻ります。
しかし、矯正治療のように弱い力が持続的にかかった場合は、歯根膜から破骨細胞という細胞が出現し、圧迫側の骨を吸収していきます。また、歯根膜から骨芽細胞という細胞が現れ、牽引側に骨を添加していきます。力を加えて2~3週間経過すると、圧迫側の縮んだ歯根膜の幅と牽引側の伸びた歯根膜の幅は元の状態に戻り、正常な組織形態となります。結果として、力を加えられた歯は元の位置より少しだけ移動した状態となります。
矯正治療はこのサイクルを繰り返すことにより、少しづつ少しづつ歯を移動させているのです。

このサイクルを繰り返すことにより歯を移動させているということは、骨の添加・吸収するサイクル(リモデリングといいます)のスピードにより矯正治療のスピードは決まるということになります。言い換えれば、骨のリモデリングのスピード以上には矯正治療を早くすることはできないということになります。

リモデリングのスピードを早める試みは様々に行われていますが、決定的にいい方法は今のところありません。そのため、矯正治療はどうしても時間がかかる治療となってしまいます。治療に時間をかけられないからと、歯を削ってセラミックの被せをつけて歯のガタガタを治される方がおられますが、神経を抜いてしまう場合も多く、むやみに歯を削ってしまうのは、矯正治療をしている歯医者の立場からするとなかなかお勧めできません。やはり自分の歯以上の歯はありません。

少しでも治療期間が短くなるように日々努力していますが、現状では矯正治療にある程度時間がかかることはやむを得ません。でも、それ以上に大きなメリットと喜びがあります。以前、矯正の患者だった僕が言うのだから間違いありません。
これからも少しでも治療期間が短く、そして仕上がりが綺麗になるように日々努力と研鑽を続けていきます。

2012年3月4日

院長 大西 秀威